逆風の正体

自民党の歴史的大敗となった参議院選挙でした。「年金の記録漏れ問題」や「政治とカネの問題」、「閣僚の失言」など様々な問題が重なり、自民党に激しい逆風が吹いた結果だと総括されていますが、その見方は表面的です。自民党が今回の参院選で負けた本質は、もっと深いところにあると思います。端的にいえば、安倍政権と自民党は小泉改革の流れに逆行している印象を持たれたということです。安倍政権は小泉政権の継承者で改革を断行した上で、さらに戦後体制からの脱却を実現した「美しい国、日本。」を創っていくはずだと国民は期待していました。「教育基本法の改正」「国民投票法案」など基本的な政策は高い評価を得ていたことは世論調査から明らかです。しかし、政治手法が昔の自民党に戻ってしまったと思われた。そこに気づいた有権者がお灸を据えたのです。発端は「論功行賞による閣僚人事」だったと思います。完全に潮目が変わったのは「復党問題」でした。

私が当選した「郵政選挙」と呼ばれる2年前の衆議院総選挙で、自民党は歴史的大勝を収めました。勝因は、郵政民営化に象徴されるように既得権益に鋭く切り込んだ小泉改革を国民が圧倒的に支持したことでした。官民を問わず、既得権益を押さえている組織や団体がそこに安住しつづける社会構造は変えていかなければいけない。さらに、そこに乗っかる旧態依然の政治家や団体が支配する構造も打開していかねばならない。国民もマスメディアも、そうした小泉改革を圧倒的に支持したのです。今でも国民の多くはその方向性を支持しているはずです。自民党は「生まれ変わった新しい自民党」で在り続けなければならなかったのです。

ところが、今回の参院選までに、私も含めて自民党は何をやったのでしょうか。例えば、参議院幹事長は「組織を引き締めて」とおっしゃっていました。私が選挙対策本部長を務めた熊本市も、組織を引き締めれば最低限の勝負になると思い組織と既存の支持者を固める戦略を中心に戦いました。その結果、前回(3年前)を上回る得票でしたが、投票率が上がった分の無党派層が自民党を支持してもらえず敗北を喫しました。既に組織や団体に依存した選挙だけでは勝つことは出来なかったのです。もうそんな時代ではなくなったのです。既得権を持っていた組織や団体に対して、小泉改革は「既得権は認めない」と言ってぶっ壊してきたわけですから当たり前のことです。職域団体の比例代表候補の得票数を見れば一目瞭然です。例えば、無駄な公共事業を減らしてきたことで建設業界は昔のように動けません、というより業界再編の中でそれどころではありませんでした。

2年前の郵政選挙で自民党を大勝に導いたのは、既得権を持つ組織や団体ではありませんでした。まさに無党派層を含む一般有権者でした。今回の選挙では、多くの良識ある有権者の声を聞く限り、安倍内閣の政策の評価に対して批判を受けたとはいえません。むしろ責任政党・政権与党として多くの国民の皆さんが納得できるような政策を堂々と訴えていたと思います。ところが、「論功行賞による閣僚人事」からはじまり「復党問題」や「事務所費問題への説明不足」や「失言した閣僚への対応」など、一般有権者の方を向いていない総理の判断に、政策論争以前の部分で不信感を持たれてしまいました。既得権を持つ組織や団体、それに官僚(政府)の方ばかり向いている。いずれも小泉改革が壊そうとしてきた相手ではないでしょうか。マスメディアもが加担し「一般有権者の声に耳を貸さない自民党に勝たせてはならない」という雰囲気が「逆風」の正体です。

安倍総理の続投については賛成の立場から、どうしたら安倍政権と自民党を立て直すかを考えなければいけません。まず、安倍総理はこれまでの政権運営で何が間違っていたのかをきちんと総括したうえで、改めて国民に政策の内容と優先順位を明示する必要があります。その際に総理の持論である「憲法改正」は極めて重要な課題であることに変わりありません。しかし、先の通常国会で国民投票法を成立させて一段落し、今後3年間は発議ができないわけですから、当面は憲法改正の中身の議論は置いておきます。その代わり、地方経済活性化や年金・教育・雇用など地方にとって切実な問題や国民生活に身近な政策に優先的に取り組むべきです。決してやってはいけないのは、地方(特に農村部)での支持が選挙で後退したからといって、民主党マニフェストのような財政改革とは乖離した利益誘導のバラマキ予算を復活させてはならないことです。

また、有権者の間では「閣僚の資質」が問題視され、任命責任を問われているわけですから、人事には早急に手をつけなければいけません。ただしその際に、「挙党一致」と称して、派閥が前面に出てくるような「重厚な人事」だけは絶対に避けなければなりません。もし仮にそんなことになれば、「昔の自民党」へ逆戻りしたイメージが定着しています。加えて、論功行賞人事をしたり「政治とカネ」に問題のある閣僚を再度選任してしまえば国民の支持を完全に失ってしまうことになるでしょう。

「美しい国、日本。」創りの基本姿勢を忘れずに、決して大衆迎合にならずに良識ある一般有権者に向き合った政治に戻すこと。安倍政権と自民党を立て直すためには、これしかないと思います。