英国出張の成果3

英国のシンクタンク国際戦略研究所での講演(日本語版)です。

 

戦略的パートナーである日英両国間の更なる防衛協力・交流の構築へ向けて』

 

ず、3年前に我が国で発生した東日本大震災に関し、英国からは救助隊員・救助犬の派遣、水・食料品・放射線防護関連物資の支援など、様々なご支援をいただきました。この場を借りて、改めて厚く御礼を申し上げます。

 

英国からのご支援のおかげもあり、被災地の復興は徐々にではありますが着実に進展しているほか、経済面では、安倍総理が打ち出した大胆な金融緩和を含む「アベノミクス」政策の効果が、株価の回復、税収増などの数字に現れ始めており、日本経済は再び上昇気流に乗りつつあります。

 

英両国の交流は、英国船舶が初めて日本に到着した1613年にさかのぼります。その後、日本の長きにわたる鎖国政策のため、日英交流は残念ながら閉ざされてしまいますが、約200年を経て、1858年に日英両国間に外交関係が樹立され、交流が再開します。日本が近代国家への道を進み始めた明治維新の際には、我が国は、軍の組織も含め様々なことを英国から学びました。

我が国の初代総理大臣である伊藤博文や、日露戦争においてロシアのバルチック艦隊を破った東郷平八郎も、青年期に英国に留学し、その後の活躍につなげています。

1902年には日英同盟に調印しましたが、20年以上続いた同盟は、軍事的な協力のみならず文化的な交流を含め両国の関係を深化させました。その後、我が国は敗戦という歴史を経ることとなりますが、国交が正常化した1951年以降、日英は再び友好を深めてまいりました。我が国の現在の皇太子殿下も、貴国のオックスフォード大学に留学されております。

日英交流400周年の節目となった昨年においては、防衛協力・交流においても、日英情報保護協定及び防衛装備品等の共同開発等に係る枠組協定の締結、ハイレベルを始めとした日英間での極めて活発な往来など、大きな進展がみられました。これらの器にどのような料理を盛りつけていくかという検討も本格化しています。

そのような中で私も、昨年9月にアンドルー王子が訪日された際、RUSIが主催した日英安全保障協力会議や、先月にホートン統合参謀長が訪日された際に開催されたRUSI主催の日英防衛協力に関するセミナーに積極的に協力させていただくなど、微力ながら日英の防衛協力に尽力させていただいているところです。

私は、日本という国が一流の独立国家であり続けるということを、政治家としての目標としています。そして、この目標のために特に大切な分野が、防衛・安全保障、そして教育であると考えています。

優れた国家は優れた人材が揃わなければ成り立ちません。優れた人材を作り上げるもの、それは教育です。現在、我が国の教育水準は世界的に高く評価されておりますが、更なる高みを目指してまいります。国民ひとりひとりが成熟し、日本という国に誇りを持つための教育、それが目指すべき教育であると考えています。

さて、私は安倍内閣で防衛大臣政務官を務めており、本日の講演も防衛政策・防衛協力がテーマですので、本題である防衛に移らせていただきます。

国は、防衛という確たる根っこがあって初めて、幹を太くし、葉を付け、花を咲かせることができるからです。国の防衛なくして国家は成り立ち得ず、ましてや国防をおろそかにする一流国家などあり得ません。

かといって、国の防衛のみを固めるだけでは一流の国家とはなり得ません。では一流の国家とは何でしょうか。経済、文化、様々な指標があるかと思いますが、他国から信頼され、尊敬されてこそ、一流と言えるのではないでしょうか。そして、そのような信頼・尊敬は、責任あるプレーヤーとして、目に見える形で国際社会に貢献し続けることにより、徐々に獲得できるものではないでしょうか。

現在の国際社会は、大量破壊兵器やテロといった脅威や、海洋・宇宙空間・サイバー空間といった国際公共財に対するリスクが拡散・深刻化しています。そのような中、国際社会と協調しつつ、地域や国際社会の平和と安定のため、より一層積極的な役割を果たしていくこと、つまり、安全保障面においてより積極的に国際社会に貢献していくこと、これこそが、安倍内閣の掲げる「国際協調主義に基づく積極的平和主義」です。

防衛省・自衛隊としても、例えば昨年11月、台風により大きな被害を受けたフィリピンに対し、過去最大の約1,200名規模で緊急支援を行いました。また、本年3月に行方不明となったマレーシア航空機の捜索のため、先月まで自衛隊の航空機による捜索活動を行いました。このような活動は、積極的平和主義の考えに沿ったものです。

「国際協調主義に基づく積極的平和主義」、この考え方は、昨年末に我が国として初めて策定した、国家安全保障戦略の骨格をなすともいえる基本的な考え方です。そして、国家安全保障戦略を踏まえ、同じく昨年末、我が国は新たな防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を策定しました。このように昨年は、我が国の安全保障・防衛政策の新たなページを開いた年と言えるでしょう。国家安全保障戦略は、先ほども申し上げた「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を基本理念として掲げ、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していくこととしています。

また、新たな防衛計画の大綱においては、我が国が整備すべき防衛力として、「統合機動防衛力」の考え方を打ち出しています。

これは、北朝鮮による核・ミサイル開発や中国による海空域における活動の急速な活発化などにみられるように、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増し、自衛隊の対応が求められる事態が増加するとともに長期化しつつある中、統合運用をより徹底し、各種活動を下支えする防衛力の「質」と「量」を必要かつ十分に確保しながら、多様な活動を状況に臨機に即応して機動的に行い得る、より実効的な防衛力の構築を目指すものです。

に本年4月には、国家安全保障戦略に基づき、防衛装備の海外移転に関して、これまでのいわゆる「武器輸出三原則」に代わるものとして、「防衛装備移転三原則」を策定しました。これは、国際協調主義に基づく積極的平和主義といった我が国が掲げる国家安全保障の基本理念を具体化した一例です。

新たな原則は、国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念と、これまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持した上で、防衛装備の移転に係る具体的な基準や手続、歯止めを今まで以上に明確化し、内外に透明性をもった形で明らかにするものです。

防衛省・自衛隊としては、新たな原則の下で、防衛装備品の適切な海外移転により、これまで以上に平和貢献・国際協力に寄与していくとともに、関係諸国との防衛装備・技術協力をより積極的に進めていくことを通じ、地域の平和と安定を維持し、我が国を守り抜くための必要な施策を、より積極的に推進してまいります。

また、集団的自衛権に関する問題につきましては、新たな安全保障環境において、我が国の平和と安全を維持するために、集団的自衛権の問題を含め、我が国の法制度が如何にあるべきかについて、今後、政府与党間で協議・検討をしていくこととしておりますが、安倍総理自ら、「過去への痛切な反省の上に立って、二度と戦争を起こしてはならない。同時に二度と戦争の惨禍に苦しむことがない時代をつくらなければならない。アジアの友人、世界の友人と共に、世界全体の平和の実現を考える国でありたい」と述べているとおり、国際協調主義に基づき、関係国と連携しながら、我が国の防衛と地域・国際社会の平和と安定を図るという我が国の基本的な姿勢は不変であることを強調させていただきます。

このように、安倍内閣においては、防衛・安全保障の分野において様々な施策を推進しておりますが、限られた予算の中で、自らの能力を超える形で何かをなすことは不可能ですし、もとより今日の国際社会における安全保障課題に対し、一国のみで対応することが極めて困難であることは明らかです。

そこで重要となってくるのが、他国との安全保障協力です。地域及びグローバルな安全保障環境を改善し、我が国の安全と繁栄を確保するため、我が国としては、日米同盟を基軸としつつ、多国間及び二国間の防衛協力・交流を進めていく必要がありますが、特に英国との協力は、極めて重要であると考えています。

日英は、ともに米国の同盟国であり、民主主義などの基本的価値観を共有しており、様々な問題に対する共通の認識を得るための下地が存在します。また、冒頭で申し上げたとおり、歴史的にも深い関係にあり、皇室・王室を持つ国家、海洋国家という共通点もあります。何より英国は、世界的に影響力を持つ大国です。我が国も、高い経済力や技術力を持ち、真面目で信用を重んじるといった国民性が示すとおり、立派な国であると自負しています。

同盟国である日米、英米の両国間ではそれぞれ、既に強固な関係が築かれています。太平洋を挟んだ(Trans-Pacific)日米間、大西洋を挟んだ(Trans-Atlantic)英米間の協力関係に加え、いわばユーラシア大陸を挟んだ(Trans-Eurasia)日英の協力関係を強化していくこと。

これは、多くのグローバルな課題が存在する今日の安全保障環境を踏まえれば、重要かつ必然なことであり、日英米3カ国間の更なる関係深化にも結びつくものです。

あまり知られていないことかもしれませんが、実際に、日英の防衛協力は様々な分野で既に進展しています。これは、特に災害救援をはじめとする運用の場面において明確に現れており、冒頭で申し上げたとおり、昨年11月のフィリピンでの台風被害に際しては、英海軍空母「イラストリアス」と海上自衛隊護衛艦「いせ」との間で、連絡幹部の相互派遣が迅速に行われ、救援活動の円滑化に貢献しました。

また、両国はマレーシア航空機の捜索のため共に活動していたほか、共にソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動及び南スーダンにおけるPKO(UNMISS)に従事しています。海洋国家として交流を深めてきた日英が、現在ソマリア沖・アデン湾において各国と共に海賊対処活動に従事していることは、自然なことでもあります。

防衛装備・技術分野においての協力も動き出しています。昨年7月に防衛装備品等の共同開発等に係る枠組みが署名され、最初の具体的な協力案件として、化学・生物防護技術に関する日英共同研究が開始されており、現在は、更なる装備・技術協力案件の形成に向けた議論が、両国の事務レベルで幅広く行われております。日英間においてどのような防衛装備・技術分野における協力の可能性があるか、今後も引き続き議論していきたいと考えています。

英国と日本、遠く離れた国とお思いでしょうか。距離的には確かにそうかもしれませんが、サイバーセキュリティーを考えた場合、私はそうは思いません。日本がサイバー攻撃を受けて情報インフラが麻痺すれば、国際的な金融取引などに大きな影響を与え、その影響は瞬時に英国にも及ぶでしょう。逆も然りです。サイバー空間の安定的・効果的利用は、日英がともに直面する新たな安全保障課題であり、それだけに大きな協力の可能性を秘めた分野です。

英国は、三年前にサイバー空間に関するロンドン会議を開催するなど、サイバー分野における国際的な課題に積極的に取り組んでおられますが、サイバー空間においては、政府一体となった対応が重要であり、日本においても、内閣官房を中心に省庁横断的な取組を進めているところです。

防衛省としても、一昨年9月にサイバー政策に関する指針を策定し、現在、省内の「サイバー政策検討委員会」において、防衛省・自衛隊としてのサイバー攻撃対処能力向上のための課題について総合的な検討を実施しており、本年3月には、サイバー対処のための専門的な部隊であるサイバー防衛隊を新編しました。今後はサイバー防衛隊を中心として、サイバー攻撃に対処する要員育成や訓練環境の整備等を含め、対処能力の拡充を図っていく所存です。

日英間では、2012年6月に第1回日英サイバー協議が開催されるなど、関係省庁を交えた形で、国際的な規範作り等に関する意見交換を含めて幅広い議論がなされているほか、防衛当局間においても、関係部局間による協議を開催し、具体的な協力の方向性について議論しているところであり、サイバー分野における日英防衛当局間の協力強化に向けて、引き続き検討を進めていきたいと思っています。

さらに、グローバルな安全保障上の課題への対応に当たって忘れてはならない重要な領域として、宇宙空間が挙げられます。宇宙空間は、情報収集や警戒監視機能の強化、通信手段の確保の観点から、安全保障上の重要性が著しく増大しています。

他方、スペースデブリの増加、ASAT兵器の開発の動きをはじめとして、持続的かつ安定的な宇宙空間の利用を妨げるリスクが存在しています。

防衛省としては、引き続き人工衛星の活用を通じてC4ISR能力の向上を図ることに加え、安定的な宇宙空間の利用の確保のための取り組みを加速化させてまいります。今後、宇宙分野において、日英間の協力の可能性についても検討してまいりたいと考えております。

今後も、グローバルな安全保障上の課題に対応するため、日英両国が協力できる分野や共通の活動領域は更に拡大していくでしょう。国際平和協力、テロ対策、海賊対策、サイバー対処などのグローバルな課題において、日本と英国の戦略的な協力は、両国のみならず、国際社会全体に利益をもたらすものになると確信しています。

皆様ご案内のとおり、昨日に行われた日英首脳会談を受け、日英共同声明が発表され、安全保障分野においては、物品役務相互提供協定(ACSA)締結に向けた交渉の開始を含め、将来の協働のための包括的な枠組を作っていくことを決定しました。昨年交流400周年を数えた両国関係が新たな一歩を踏み出した本年、こういった成果が発表されたことは、日英関係の明るい未来を象徴するものです。

私は、近年顕著な進展をみせている日英間の戦略的パートナーシップを、新たな世紀へ向け一層強化すべく、日英両国間で様々な分野における防衛協力・交流を拡大し、日英関係をより一層進展させていくとともに、日英両国で世界の平和と安定に積極的に貢献していきたいと考えており、引き続き、そのために全力を尽くしてまいります。

最後になりますが、本日ご列席の皆さまに改めて感謝を申し上げるとともに、日本の安全保障・防衛問題に関する身近なポータルとして、是非私を活用していただき、質問・相談などお気軽にくださいますようお願い申し上げ、私のスピーチを終えたいと思います。

ご静聴ありがとうございました。